また、しっかり想いに留める日が過ぎてゆきます。
東北で仕事をするようになって、8年目です。
初めて被災地を訪れた時は、その日からだいぶん年月が経った後で
変わり果てたその場所には、人の営みの痕跡が確かにあったのだろうと
思えるコンクリート基礎の跡や、敷地境界のブロックが
静かに残されているだけでした。
清掃作業をした人々のその仕事の残骸が
なんだかとても悲しい反面、なんとかしてあげたいと、ただただ
願うばかりの非力な現実を
圧倒的な現実が心を押し流していくようでした。
東北地震の後、どうゆう形かで復興に微力ながら参加したいと思っていたで、
やはり、こうした圧倒的な背景を持つ人たちが
全国にはたくさんいるんだなと肌で実感し、知れたことは、
私の設計するキャリアの中で、とても大きな出来事になりました。
そんな想いを抱えながら初めて、東北のために
携わる機会を与えていただいたのが
「玄孫」という小さな飲食店でした。
仙台の駅前のビル街の中に山形から移築した蔵を
店舗として現代に甦らせるというプロジェクトです。
東北のアイデンティテーとは何かを
この時に多くの周辺民家を回り
そして、そこに住む人と話して、
本当に深く深く教えていただきました。
現在は、東北っこが楽しく美味しく時間をゆったり過ごせる
肩肘張らない、でもビジネスにもデートにも使える、
そんな自然体で楽しい店として賑わっています。
岡山生まれの僕が、仙台に行きつけの店を持つなんて
思いませんでしたが、この出会いが次の東北の仕事へと繋がっていきます。
蔵王の家
大角設計室としては東北で雪について、寒さについて
新しく「東北仕様」と言えるような現代的なデザインを
考えることができるようになったプロジェクト。
開けること/開くこと/開けすぎないこと/閉じすぎないこと
いろいろな要素が、
温熱環境の快適さと居住環境の快適さに直結するわけですが、
それらのバランスする場所を捉えることで
生活することの「楽しさ」が奪われないように
注意深くデザインしたことを思い出します。
茂庭の家
国土交通省のサスティナブル建築物先導事業(気候風土型)として採用。
初めて設計した玄孫の完成見学会でお会いして
そのあと、お声がけいただきました。
個性的な住まい手の要望とデザインがリンクするように
そして、東北地方の縁側とは、どういったものがふさわしいのかを考え
現代的な縁側空間として、古い「縁側」の形式を現代的にリデザインしています。
住まい手のお二人と一匹が、本当に美しく楽しそうに住んでくださっていて
僕の密かな東北のデザインの先生です。
そうして新築住宅が続いていたのですが、
次は築160年ほどの古民家再生のプロジェクトをすることとなります。
アキウ舎。
仙台の奥座敷といわれる、温泉街の一角に
国家戦略特区の一環として
過疎地域の観光の起爆剤として期待された
農家体験型カフェレストランとしてオープン。
その建築デザインを担当。
地域フードプロデューサーや東北のデザイン事務所、ゆかりのアーティスト、
温泉街の方々など、本当に多くの人との協働を経て、
町のシンボルに明かりが灯ったと、本当に感謝されて
今でも足繁く通う、第二の行きつけのお店。
最後に富谷の家。
閑静な住宅団地に立つ元気いっぱいの3人のお子さんと夫婦のための住まい。
忙しい家族の生活スタイルをいかに楽しく美しくできるか
そのバランスの回答を求められデザインしています。
住まい手の好みとすり合わせながら
最終的に想像以上の発見がある家になるように努めました。
ざっと振り返っても、こんなにプロジェクトがあったんだと思い、
その関わった方々には感謝しても仕切れません。
つまるところ、設計事務所である私たちが出来る東北の支援は
多くはありませんが、一つづつ丁寧に向き合うことで
これからも応援を続けたいと思います。
まだ3つ東北でのプロジェクトが進行中です。
楽しみと緊張とが合わさりますが
振り返った時に、一緒に喜びを分かち合えるように
しばらく東北と向き合いたいと思います。
ゆあさ