大角設計室のブログ

おだやかなくらし。刻が染み込む家をみんなで創ります。

色の無い季節に

水島の現場もだいぶんカッチリした形になってきました。
と言っても完成はまだ先。
もっともっと全体的に今の印象を引継ぎながら
しっとりと、ピシッと、さらに良くなるイメージを膨らませています。

今年は比較的暖冬とはいえ、やはり現場では空調等はありませんから
とても寒いです。職人さんは慣れているとはいえ、その状況で
集中力を解かずに作業する訳ですからたいしたものです。いつも感心します。


そんな職人さんが集中力を切らさない秘訣は「段取り」です。
良い職人さんや、工務店は工事の一歩二歩三歩先をよんで
仕事がスムーズになるように計画することで
イライラすること無く、良い仕事が出来ます。

そんな大工さんたちの準備のために設計事務所も協力します。
仕事の順序の適切な時に、大工さんと打ち合わせが出来るように
資料を準備します。
早く資料が必要だと言っておきながら、早く資料を渡しすぎると
その打ちあわせ内容を忘れたりすることも、職人さんも人ですから良くあります。
だから、人となりを見ながら、ベストタイミングで図面をバトンしないといけません。
その辺は、工事監理者としての腕の見せところでしょうか。



計画している壁のベンガラ塗りについて。
ベンガラ塗りの色サンプルを作るために試し塗りを行います。
大体は色見が決まったものがあるのですが、部屋の位置や方位、
面積、他の部材との兼ね合いが、全てのプロジェクトで違いますから
出来るだけ毎回サンプルを作ります。

ベンガラは「紅殻」と表記される自然からとれる鉱物を砕き水に溶かした
昔から日本で使用されて来た塗料です。


紫蘇の朱色と比べてみます。
自然の色と同色にする必要は全くなくて、
自然の色を引き立てるような自然な背景となれる色を模索します。
迷った時は、自然から学ぶことが多いのです。田舎ですから。



椿の華やかな赤とはどうでしょうか。
この写真からも分かるように、備前焼のツボの土肌色が
椿の可憐な色を控えめに引き立たせています。

この備前焼のように控えめながら
空間の中で重要な色見になればいいなと考えています。



徳島の施主からいただいた蜜柑を食べながら
自然な味わいを考えます。

でも昔の蜜柑はきっともっと酸っぱかったんでしょうね。
本当の野生を受けいれることが私達は、まだ出来るのでしょうか。



さて現場に戻ります。

組み立てる順番を考え、つぎに使用する材料が選定され
行儀よく現場には木材が整列しています。

この現場の棟梁は、僕とあまり歳が違わないのですが
その仕事の段取りの良さと、頭の良さ、取り組む姿勢にいつも
頭が上がりません。僕も頑張ろうと思わせてくれる棟梁です。



板を立てかけて選別しています。
こうして、板の色見をみて一枚一枚取り分けます。
そうすることで、広い面積を貼った時に違和感の少ない空間が出来ます。

もちろん、板を選り分けるように設計者は指示を出していますが
出さずとも、こういった事を黙ってやってくれる職人も少なからず存在します。

こういう職人の矜持を、現場の段取り等を見ながら感じ取ることが出来ます。
そういった言葉を交わさないコミニケーションも
ものづくりの現場では重要視されている気がします。
言葉は悪いですが「この仕事の価値がお前にはわかんのか?」みたいに
人間性を値踏みされます。

そうして設計者も施工者も対等の立場として
お互いを認め合って良い現場になっていきます。

仕上がったもので勝負するのはプロとして当然ですが、
そういった前段階の準備も、賞賛されるべき仕事が現場には溢れています。

ゆあさ