大角設計室のブログ

おだやかなくらし。刻が染み込む家をみんなで創ります。

旅立ちとサビしさ

四年間事務所に手伝いにきてくれてお世話になった、
大学生が卒業します。
そんな季節になりました。

彼は、地元に就職する為に関東に帰ります。


最後に岡山でやり残した事はないかと訪ねた所
「吹屋に行ってみたい」とのこと。

そうかそれなら現場も近いしついでだけど
四年間頑張ってくれたお礼に一緒に行こう。とのことで行ってきました。



「吹屋(ふきや)」とは岡山の中央部に位置する山奥の静かな集落です。
日本で最初に17世紀頃ベンガラの精製がなされ、発展を遂げた場所であり
石州瓦の赤瓦(オレンジ色)にベンガラ格子の赤色、鉄分を多く含んだ赤土壁。
全てが赤で統一された美しい町並みも残されています。

この豪邸はベンガラで財をなした一族の家。
民家とはこういう形もあるんだよと
ちょっとより道。


そしてもう一軒、吹屋にはベンガラで繁栄した一族の家があります。
個人的に、この家に至るまでのアプローチが好きなので
ここも一緒にあるきます。



町並みに戻りましょう。
まぁー、びっくりするくらい人がいません。

ここは、ちょっとやそっとじゃ来れないくらい
人里離れている為に、幸か不幸か
昔の民家らしい美しさが残されています。

ベンガラの赤色は、煤を混ぜて色のトーンを調整します。
その上で油で拭き取り艶を出します。
とは言え、ベンガラとは突き詰めれば
鉄の「サビ」のもとになる成分です。
派手な神社の朱とは全く異なる、
日常に存在する、庶民のための控えめな色彩なのです。


「僕は岡山に来て。はじめて、こういった(町をたのしむ)遊びを知りました。」
そう彼がつぶやいたのが印象的でした。


彼の心の中にも、民家の種が静かに根を下ろしているとしたら
嬉しいことです。



身から出たサビ。という言葉がありますが
民家の世界には、サビがつくりあげる美しい風景があります。
たとえ彼がサビつく経験をしようとも、
それが美しく染めあげてくれる日が来る?かもしれません。

きっとそうです。
いつか。時間がたいそう必要ですが。きっと。


ゆあさ