大角設計室のブログ

おだやかなくらし。刻が染み込む家をみんなで創ります。

新緑とうつわ

新緑の季節に、仲の良い陶芸家、星正幸さんのアトリエに遊びにいきました。

正確には遊び、というより
開催するギャラリーのお手伝いのを頼まれまして、その為の
取材、ロケハンといったところでしょうか。




現在アンクル岩根のギャラリーにて展覧会開催中です。
お時間がある方は是非。
岡山では、この機会しか展覧会がありません。
今週日曜日で終了です。


作品は、出来上がったモノで勝負する必要がありますが
その背景をちゃんと知った上で
出来上がったものをもう一度眺めてみるのも、またいいものです。

登り窯と、整然と並べられた赤松のマキが
備前というありふれた田舎の雰囲気にとてもあっていて
作家の作品性の豊かさ、几帳面さを垣間見た気がしました。



この作家の特色を僕なりに分析するならば
土の美しさがあげられると思います。

備前焼作家としては珍しく
あまり色が変化していない作品です。

皆さんが一般的に思われる備前焼のように
赤褐色、緋色の濃い粘土が、窯で焼成される時
マキの灰が溶けることによっておきる「窯変」の
いわゆる景色が、主題では「ない」と思わせる程です。


それは作家が土のそのままの表情を
大切にしたいと考えているからだと個人的に思います。




皆さんは備前焼の粘土となる原土はご覧になったことがあるでしょうか。

深い田んぼの地層から掘り起こされた原土が
アトリエの倉庫に数多く並べられていました。

自分の代だけでは使い切れない程のストックがあるようで
その中から吟味された土から、自分の作品に適した粘土を選りすぐっていきます。




星さんの工房ではいにしえの陶工がしていたそれとおなじように
日々、日々、原土を槌で砕き
大きさ、色、性質ごとに選り分けていく
気の遠くなる工程がおこなわれています。

現在はこの工程は一般的な備前焼では機械にて土の選別は行われます。

「僕はこっちの素晴らしさを知っているから、
よっぽどじゃないと、黙々とこれを、大変でもやってるね。」
とおっしゃっておられたのが印象的でした。



ITだAIだと叫ばれる昨今ですが
新しい技術は、使い手の度量が本当に試されるなぁと
改めて感じます。

とくに、窯の形等に革新があった江戸期より
その他はほとんど変わってないように「一見」みえる
備前焼の世界。



でもそれって、現代人や田舎の人達が陥りやすいパターンでもありまして

「昔っから、何一つ変えていませんよ」

という言葉。昔のままこそ素晴らしいという無条件の発想。

本当にそうでしょうか?


いつも思いますけど、
じつは田舎に流れている時間と技術(文化?)は
ゆっくりと、しかし確実に薄皮のような、見えないくらいの厚みを
過去をベースに、常に増し加えながら、独特な、そして圧倒的な文化の厚みを纏っていきます。

だからこそ、昔から引き継がれた技術は、得体の知れない「良さ」を感じるのではないでしょうか。
焼物の世界だけではなくて、農業、漁業、林業、土木、建設などなど
全ての世界に「むかしと変わらない=進歩していない」と思われがちな世界があり、
誤解されがちなその文化は風前の灯火です。



現代は、「新しい」と感じられる。(このカンジラレルがくせ者ですが)
分かりやすい「新しさ」が求められます。
もしくは「過去に遡って継承しているフリ」も多く見られます。



田舎の設計者として思うことは
私達の創ろうとしてる「新しさとは」、一見すると何処が手を加えているのか
分からない程、慎重すぎるほど慎重に、新たな価値を付加していくことではないでしょうか。

きっと、現代の人にはなかなか理解し辛い面もありますが
それが、過去をさら受け継ぐものたちの、謙虚な立ち位置なのではないでしょうか。

星さんの凄さも、そういうところにあるのではないかと
個人的には思っています。




新緑と備前は良く合います。
今年も極上のアスパラいただきました。
本当にありがとうございます。

星さんのビアジョッキ、モダンで気に入ってます。




ゆあさ