「大きな屋根の家の下で」
再生工事連載最終回です。 →記憶を呼び覚ますためクリック これまでの再生工事おさらい
長々と再生工事ブログをつづけてきましたが、今日までのおつきあいありがとうございました。
実際の工事もかなり時間がかかりました。
もともとの民家をおさらいで振り返ってみましょう。
千葉県の方では一般的に見られる茅葺き屋根に鉄板を葺いた民家でした。
江戸時代からこの茅葺き屋根の下で、連綿と生活が営まれてきました。
「構造補強+」
茅葺き屋根の大きな軒下を外周ぐるり一周するように
構造補強と意匠を兼ねた縁側空間が古い建物をつつみます。
ただ単に筋交いや金物で構造補強をするのではなく、
折角なら構造を補強すると同時に空間の豊かさに繋がるよう考えています。
「古くて新しい時間がながれる縁側空間」
新たな壁(シックイ塗や土壁等)・柱・建具・照明器具などの現代の素材のなかにまじって
鈍く黒光りする古材の柱梁が溶け込んでいます。
この空間にたたずむ時、古い民家特有の懐かしいような感覚にもとらわれますが
さらに、現代的な清々しさのある新鮮な印象を受けます。
こういった「古くて新しい」という感覚をうみだすのに
毎回かなり慎重に設計をすすめています。
一般の方は古いものをなおすのだから古くて、新しくて当然だろうと考えると思います。
ですが、実際はなかなか難しい作業なのです。
「とってつけた様にならない為に」
例えば黒光りする丸太一本を見てみても、何ともいえない魅力がまとわりついています。
軽い気持ちでデザインしてしまうと、民家の魅力を引き出すどころか足をひっぱってしまい
空間の質を下げてしまいます。
理想は民家の魅力も、現在の手を加える箇所も相互に美しくなれる状態です。
自由だからといって自分の好みだけを頼りにデザインすることは
多くの人の共感を呼ぶ美しさにはつながらないかもしれません。
「とってつけた」様なデザインにならないように昔を学び、そこをベースに発展させる必要があります。
「古くて新しい」
やわらかなふくらみをもつ茅葺き屋根、あたたかな日だまりのある縁側、
関東ローム層の土ぼこりから守る為に植えられた防風林に囲まれた配置。それらの要素は
生活を守るため必然的にうまれたカタチであったはずです。
それら地域固有の民家特性に学び、
現代の生活に適応する為の機能・意味を慎重に加えることによって
単純な古さ、新しさではない、ノスタルジックでももちろんなく「古くて新しい」空間になりました。
よく目を凝らさないと気づかないような新しさをそなえたこの民家は、
未来へ向けてこの地域の風景を修景しています。
→この再生物件の掲載雑誌 住宅建築6月号
こちらも是非ご覧下さい。
「現代でも充分通用する美しさ」
民家は何代にもわたって受け継がれ昇華されたデザインの宝庫です。
そのなかには古さや新しさとは関係のない、現代でも充分美しいと感じる
不易(ふえき)のデザインがあります。
そのようなデザインをさらに昇華させていくのが今後の課題です。
今日も古民家との真剣勝負がつづいています。
次回からはまた別物件の再生工事をアップしていきます。
ゆあさ