大角設計室のブログ

おだやかなくらし。刻が染み込む家をみんなで創ります。

美しさのふるさと


美しいけど、残らないもの。結構ありますよね。
そんなことを痛感する風景にしばしば出会います。

写真は鳥取県兵庫県の境に位置する
廃村寸前の様を呈した場所です。
茗荷谷」と呼ばれる豪雪地帯。

久し振りに、こういうものがまだ残っているんだと
心揺さぶられる風景でした。





この集落の存在を知ったのは、一枚の写真です。
その写真には屋根が全て木板で葺いてあり、その上に石をのせた
素朴で切実な美しさのある集落が写っていました。

現地を訪れた時には、屋根は全て鉄板に吹き替えられていましたが
美しさの質は、変わらず旧来の美しさを保っているように感じました。

谷間から川の石を拾い上げ、ひとつ、またひとつと段々に積み上げ続けて
ようやく出来た、手狭な平地に簡素な家と畑を拵えたこの場所の空気は
日本の美しさのふるさとです。日本の美のすべてがここにあるとも言えると思います。

いつか、デザインで迷った時に「ここ」に帰って来れる。
そんな場所だと思います。





先ほどの集落から東へ車で1時間程でしょうか、
いま地方創生が叫ばれておりますが、そのモデル地区に選ばれた過疎の村。

木造三階建ての蚕部屋のある集落が立ち並ぶ地区です。
窓のプロポーションが独特で
二階と三階の間にある庇の付け方に特徴があります。
他の地方では先ずお目にかかれないものです。

その蚕部屋のある集落を、商業施設にする事で
村を活性化させようと言う試みです。


こういった場合、現行建築基準法規に100年程前の建物は合致させる事が
なかなか適いません。そこで、この地区は特別区として、そうした問題を
超法規的措置によりクリアさせる事で保存を可能にしています。
上手くいく事を祈るばかりです。



さて、先述の集落の場合はどうでしょう。
どうやったら守り抜けるのでしょうか。そもそも住む人達は残したいと思っているのでしょうか。

建築家は無力ですが、もし、この場所を残したい人がいるとするならば
これから先はそういったものを守る職能も必要になっていくでしょう。

たとえこの場所が残らないとしても、設計者にはできることがあります。
それはこの「美しさを引き継ぐ」ことです。
いつか、自分の仕事が美しさのふるさとにつながっていけば
こんなに幸せなことはありません。

地方で建築を考えるとは、そういった事ではないかと
おぼろげに考えています。



ゆあさ