棟上げに向けて、セッセッ、と作業は進んでいます。
広い作業場を一件の住宅の木材が埋め尽くしていきます。
作業は広くないと効率良くできないので
写真の作業場ともう一つ同じくらいの広さの場所が別にあって
そこでも黙々と作業が進みます。
刻みの作業は、一般的には機械によってオートマティックに行われます。
その作業は時間にしてわずか半日ほどという脅威の効率を誇ります。
「プレカット」と呼ばれる方法ですね。
一方この現場では、
一本一本大工さんが手分けしながら、腰を据えて、
ノミとカンナで木材を刻んでいきます。
この作業を業界では「手刻み」と言います。
建築業界では「プレカット」で作られる家の割合が圧倒的で
「手刻み」と呼ばれる割合は微々たるものです。
「プレカット」と「手刻み」どっちの方がいいの?とよく聞かれますが
それはどちらにも「メリット」「デメリット」がありますので
回答としては適材適所で選択していくべきではないかなと思います。
ですが、最近よく言われるAI(人工知能)の発達による
「将棋の神の一手」のような、
人工知能がなければこの木造建物は存在しなかったであろう
という状況では、まだまだないのかなと肌感覚では感じています。
だいたいが、時間をかければ大工さんにもできます。
でもスピードは圧倒的に機械ですね。
ただ、個人的に思うこともあります。
手刻みををしていると写真のように一本の柱や梁を
木の表面を削っている場面があります。
この時大工さんたちは「あと5厘削ろう」とか「この面はもう一回だけ削ろう」
という風な会話を繰り返しながら刻み作業に使う木材を仕上げていきます。
つまりは木の特徴を見ながら、削る面積を
増やしたり減らしたりしながら、自分の感じるままに
コントロールして微妙に調整を繰り返してくれているんですね。
先ほどの「プレカット」と「手刻み」について、
個人的に思う「違い」とは
「機械的に狂いなく整えられた寸法の集積」と
「人間的に微差を吸収しながらの寸法の集積」ではないかなと思います。
学校の教室に例えるなら
前者が、異分子のいない静かな規律正しい生徒たちが座る教室だとすれば
後者が、自分に似合った個性を纏った、少し賑やかな生徒たちのいる教室でしょうか。
どちらが好みかは人によって違うと思いますが、
古い民家を何件も直したり、測ったりした経験から言うと
昔の美しいなと思える民家は決まって
画一的ではない「豊かな寸法」が含まれます。
一見すると、感じられない寸法の違いを
人間の目のセンサーは肌感覚で感じられるのかもしれません。
そんなことをぼんやりと
木の表面を眺めていると感じられるかもしれません。
日本の職人さんの「非効率」と呼ばれる作業には
実は「効率よく美しくつくる」作業の秘密が隠されている
そんな気がしています。
ゆあさ