建築の科学的な要素は物理の側面が目立ちますが
わりかし化学もたくさん関係してきます。
自分は学生時代は物理より化学の方が得意だったのですが
大角建築の化学的側面をちょっぴりお話しします。
建築の化学といえば空調や腐朽性、コンクリートなどいろいろありますが、
大角設計室的に一番こだわっている部分が左官工事です。
土壁は塗る前に土を混ぜてスサなどの有機物を混ぜてしばらく醗酵させると土壁の硬度が増します。
この中でどんな化学反応が起きているのか
職人さんはアカデミズムな説明はできませんが
経験で勘所を的確につかんで壁を仕上げてもらいます。
特に漆喰は乾燥で固まるのではなく
空気中の二酸化炭素と反応して硬化するので不可逆性があり濡れてもへっちゃらです。
そんな左官工事で時々難所となるのが活着性と塗り厚です。
土壁は土同士の活着性は良いものの他素材との接着には難ありな性質があります。
そこで一般的には木舞を編んでできた隙間に土をねじ込むようにして剥離を起こさないようにします。
一方「漆喰」は石灰つまり水酸化カルシウムが主成分の素材です。
その塗り厚は数mmですみ、耐水性や防汚性能、防火性能など優秀なので
仕上げ材として土→漆喰の順で使っていますが
粒子が細かく糊も混ぜるので土に比べると異素材と接着しやすいんです。
今回塗る順序を逆にして漆喰→土の順で塗ることで
木の表面にも薄く土を塗れるのかを実験してみました。
普通は木に漆喰はつかないのですが糊など調整しているのですが
しっかりくっつきました。
茶室の左官やさんなど板に薄く土を塗る時に行う方法らしいです。
こんな感じでいろんな部分で実験を重ねています。
よく自然素材と化学物質というように二項対立のように捉えられがちですが
漆喰や土壁も自然のなかで生成された立派な化学物質です。
思うに「新しい化学物質」と「昔ながらの自然素材」に明確に境界線があるわけではなく、
比重の問題で、どんな素材にもどちらの要素も含んでいるものです。
最近では「自然だから安全」「化学的だから危険」という偏見を元に
自然素材を目的に据えた住宅の広告もよく見ます。
大角設計室は「新しい化学物質」も「昔ながらの自然素材」も
平等な評価軸を持って採用しています。
それでも自然素材に軍配があがりがちなのは
意匠としてコントロールできない領域をあえて残そうとしているからです。
ムラや滲みや凹凸。
均しても均しても現れてくるそれは精製された物質では作れない表情です。
作れたとしてもどこかわざとらしい感じがします。
出来上がってみないとわからないことを
それでもきちんと想像してあれこれ言いながら仕様を考えています。
出来上がりが楽しみです。
うえにし