大角設計室のブログ

おだやかなくらし。刻が染み込む家をみんなで創ります。

竣工はつづく

前回までのおさらい
o-sumi.hatenablog.com

久しぶりに修善寺の現場です。
もう少ししたら写真撮影予定なので
少し現場を振り返って、カメラマンにどのアングルで
狙っていただくかを少し整理しています。


建築は一軒一軒、まさに一品生産ですから
その都度似ているようでまったく違うものを思考し
創っています。




このあたりの



「似ているようで、一軒一軒まったく違う」



というニュアンスは
大変わかり辛いだろうなぁと思います。


同業者でもなかなか気づきません。


じゃあやっぱり、同業者ですら気づかないような差異は
ただの設計事務所の「自己満足」や

言葉を悪くすれば「エゴ」なのでしょうか?



そんなことを考えながら写真をご覧下さい。



この修善寺の家の特徴は、交通量の多い道路に面した
オフィス兼住宅です。


そのためいつのも大角設計室の分棟配置の中でも
比較的にクローズ気味に建物が配置されています。

そして、分棟配置によって
その家の中心に中庭を据えています。
しかしながら、この中庭は現地に行くと分かりますが
何となく外とも繋がっています。



外壁も周辺環境からクローズするため、窓の位置
そして仕上げに注意を払いました。

住宅とオフィスという2つの場所をもつ必要があったので
東面をオフィス棟。
西面を住宅棟としています。

この漆喰壁はオフィス棟と住宅棟をつなぐブリッジ的な役割も果たしており
建築的に重要な要素となっています。




さてオフィス棟に入ってみましょう。
一階にはオフィススタッフがミーティングで使える
スペースが用意されています。

時には住宅に突然の来客が会った場合等も
こちらで捌くことができるように想定しています。


この少し細長い事務所の為に
特別にテーブルをデザインしています。

ブラックウォールナットの3mクラスの大きさで
すこし、部屋幅に合わせてスリムな奥行きの
のびのびとした使い勝手で空間にとても合っています。



ミーティングスペースは中庭と繋がっています。
そしてその奥に見えるのが住宅棟です。

もともと敷地に高低差がついており
オフィス棟と住宅棟はその高低差と中庭の植樹によって

心理的・物理的に

ちょうどよい距離感を生み出します。



テーブル越しに中庭そして住宅棟が見えます。
ミーティングで仕事をする人がいても
住宅側では気兼ねなく過ごせるように
住宅側には仕掛けがあります。

中庭形式は本当にプライベート感が強いですね。

仕事場なんだけど、なんだか隠れ家みたいな、
ちょっぴりワクワクするオフィス空間です。




そして二階へ行ってみましょう。
この二階へ行く道は個人的に結構気に入っています。

道路の騒音から執務空間を守る緩衝帯ゾーンになっている訳ですが

同時に外回りから執務作業へと気持ちがスイッチしやすいように
余白をもたし、

やや
ほんやりした

気分がリフレッシュしやすい
空間にしあげています。

少し非日常で抽象的な光に満たされた空間です。


白い谷みたいな
階段室。


よっしゃいくぞ、

みたいな気分になります。



シンプルな小屋組の執務スペース。
写真左の本棚は大工さんがつくっています。
現在からスタッフが増えても対応できるように
配線や家具、収納が配置されています。

ここも中庭に面していて
気分転換に中庭を望むことができます。



そしてこちらが住宅棟です。
一般的な和小屋とよばれる丸太組を
如何に美しく見せるかがテーマでした。




そして住宅棟にある階段を降りていきます。
この階段もスノコ状になった天井や壁から
光や影。うねる丸太の存在感等が伺い知れるデザインがしてあります。

日中に電気をつけなくても
何となく明るさが保たれた階段です。



さてメインで生活する
居間兼食堂・台所です。

キッチンシンクをアイランド形式とし
釣り戸棚や、キッチン台、作業台、収納を
空間と昨日にあわせデザインしています。

この空間に合わせて購入いただいた鍋等が
空間の仕上げの点景として効いています。


このキッチンは以前の記事でも書きましたが
施主の奥様と何度も話し合って
じわじわと完成形に至りました。

とてもシンプルですが、空間にピタッとあった
大きさになっています。

使い勝手もいいですよ。


そしてダイニングテーブルに座ってみます。
中庭との関係性が空間に大きく関わってきます。
今回は金額が許したので雪見障子としています。

雪見障子とは、一枚の障子が下から75センチ位まで
上下にスライドできるように細工された障子です。

この障子を採用することで
向かい合うオフィス棟とは目線をカットしながらも
中庭の広がりは視覚的に確保するようにしています。


アイランドキッチンから中庭を見ます。
個人的には台所に立って空間を楽しめるように
デザインするよう心掛けています。

光と影が移ろって、とっても綺麗です。




全部障子を締めるとまたひと味違った
美しさがあります。
部屋の大きさや、障子の大きさ。
部屋の意味合いなどから総合的に判断し
障子の桟の大きさを導き出しています。



そして、障子は完全に引き込めるようにデザインされていて
中庭と一体的になるようにもデザインされています。

そうするとまたまったく違う空間が現れます。

現在は植栽も葉をつけて写真の時とは違った状態です。


さて、ここまで駆け足で修善寺の家を振り返ってみましたが
如何だったでしょうか。





最初の問いは


「似ているようで、一軒一軒まったく違う」



というニュアンス。


そしてそれは


ただの設計事務所の「自己満足」や
言葉を悪くすれば「エゴ」でそう(一軒一軒違うと)言っている
だけではないのか?ということ。




その解答にお答えする為に施主の方に以前言われた言葉が
ひとつのヒントになるかも知れません。

「今まで色々な家を見たけど
 こうして出来てみると自分の家が一番良い。」
そう言われる機会が結構あります。


つまり、施主の為に。



施主の為だけに創られた家は、



設計者と住まい手と工務店
共同作業から生まれたものであり


けっして、設計事務所「だけ」で出来た訳ではありません。


設計者は施主が持っておられた
小さな種のような想いを

どんどん大きく育て上げたに過ぎません。
施主やその土地と真摯に向き合って創ることが
出来たかどうかで、自然にカタチはついてきます。


だから、一軒一軒違って当然なのです。



設計事務所が毎回違う建物にチャレンジできるのは
施主が個性的であることと
建てる場所の条件が多様であるからです。



もちろん、条件が違っても、同じような住宅を建てることは
不可能ではありません。
実際日本中そんな風景に溢れているようにも見えます。



逆に建築雑誌等に載っている建物は
無理矢理にでも「特殊解」になろうとしているようにも見えます。
でも施主に満足いただけない特殊解は
本末転倒です。


そのことを胸にいつも設計者は留めておく必要があるのかもしれません。


ゆあさ

■このブログ記事のつづき
o-sumi.hatenablog.com

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