大角設計室のブログ

おだやかなくらし。刻が染み込む家をみんなで創ります。

今を継ぐもの(最終回)


ずーっとバタバタしてまして
連載が尻切れ気味になってましたこのお家。
なんとか、無事に引越しいただくことができました。




個人的に、かなり久しぶりの
地元岡山での再生物件だったので
地元の風景を考える素晴らしい機会となりました。

もともと僕の父方の出所もこの地方なので
瓦の色や屋根の形、石垣、等小さい頃からなんとなく見ていた
馴染みある建築要素で
この民家もやはり構成されています。


この地方に同じような民家は数あれど
その家に留まって、且つ、生まれ育ったその家を
「若い次世代が直して住む」
という選択をする若い世代はそんなにはいないと思います。

以前に比べれば、増えてきているかも知れませんが
田舎に住むとすると
働き口までの出勤時間や、
子育てする世代の進学等の問題がある為に
なかなか民家を再生するという選択には及ばない
現実があります。



しかし、本当はこの家こそ
自分達田舎にうまれたものだけが引き継げる権利を持つ
豊かなアドバンテージであることは
地方の生活者はうすうす勘付いています。

町にでて、手に入れる小さな家も周りの利便性が享受しやすく
それはそれでいいのだけれど
本当に自分に欲しいものではないのではないか?

そんな感覚のズレがあるのかもしれません。




でも、ただ、古いものが好きなことが理由だけで
生活しているわけでは、往々にしてありません。
圧倒的に不便を選んできた地方の生活者にとって
便利ではなくてもいいけれど
適度に欲しいものが生活の質にはあるハズです。

そういった適度なライフスタイルという
「新しい価値」を住まいに設計がこめて、住まい手に提案出来てこそ
はじめて
若い世代は、くすんで、ややくたびれたこの愛すべき我が家を
「再生する」ストーリーのなかに、足を踏み入ることが可能となります。


地方の設計者が、地方の風景に寄与する為には
そんな眼差しと、能力が必要になってきているのではないでしょうか。

そんな施主に私達は今まで幸運にも恵まれてきましたし
そんな設計者と出会いたいと思うかたが
全国に本当に大勢いらっしゃると確信しています。



時間という見えないけれど
一生つきまとう美しさが、古い家にはひそんでいることがあります。

でもそこで生活する為には、
未来を生きる若い世代の時間にあわせた
家の設計の工夫が、必要です。

今の生活を第一にすべきですが
ついつい忘れがちな、もともとの住まいにひそむ時間軸も同時に流れています。
その見え難い時間軸には現代を生きる世代にも祝福となる美しさが含まれます。
過去から続く時間を
現代と未来へ如何に昇華するかが設計者の役割でしょう。


過去と未来の時間が分断されることなく存在する家は
豊かで
ふしぎな魅力があります。




過去から引き継いできた「質」を
設計者は大切にする必要があります。
形に縛られすぎる必要はありませんが
形を変える場合は本当に慎重に
積み重ねられた「深味」を薄っぺらいデザインで漂白しないように
気を付けたいと思っています。

形見の着物を、全自動洗濯機で洗えば衛生面以外の価値が
抜け落ちてしまうのと似ているかもしれません。




もう少し温かくなったら竣工写真をお願いしようと思っています。
それまでもうすこし、
家族の時間を重ねていただくことができるので
撮影の時にはどうなって行くのか



今を継ぐものの姿を
写真家の方には是非納めていただきたいと思っています。



ゆあさ