前回までは、豪雨による河川の氾濫によって、
住宅内への浸水被害にあった場合、工事前に被害状況を記録する大切さについて書きま
した。
いよいよ再生に向かって進みだします。
この「さあ工事をするぞ」、という状況になるまでが、
本当は工事よりも大変なプロセスなのですが(身体的にも、心理的にも)
こうしてブログに書くことで、現在の被害状況から、先に未来が見えない方々のために
少しでも、その先をイメージできるようになればと願って、
私たちの経験を少し具体的に書いてみたいと思います。
被害状況を正確に確認することが何より大切
浸水や、火災、地震などの災害にあった場合、「被害にあった」という気持ちが
計り知れなく増大します。
その気持ちに対処するためには「正確な被害状況」を知ることで、
「冷静にどう対処しないといけないか」という思考プロセスに、はじめて進むことが出来るようになります。
次に、被害状況を正確に把握するために、調査をする上で「目視」「触診」「臭気確認」「設備の動作確認」を行っていきます。
被害状況をするために、今回は、目視できる箇所は目視で被害状況を確認し、
目視できない箇所は一度内部まで目視できるように、壁、天井、床を最低限取り外し、
調査を行いました。
この見えない箇所の確認は、本当はもっと最小限の範囲で行いたかったのです。
なぜなら、一度天井や壁を外してしまうということは、そのことによって
最終的にはまた元の状態に直すのにお金がかかってしまします。
ですが、
建築実務経験者である私たちも経験が圧倒的に少ないですから
経験則で当てずっぽに答えを出すことは出来ません。
でもそうして、住まい手も自分で確認出来る「目で見える状況」を作ることで
一緒に「調査結果を施主に確認してもらいながら説明」することが可能になります。
「このような調査結果であるから、
設計者としてはコレコレの理由で大丈夫だと思うから、これは再利用しませんか。
でも別の箇所は新しくする必要があると思います。」
「そういった判断についてどう思われますか?」
そんなプロセスを現場で何度も繰り返すことによって
「住まい手が納得したカタチの復興」になるのではないかと考えます。
ある程度被害の少なかった箇所は、一部の箇所から全体の被害状況を類推する抽出検査としました。
その結果も住まい手と話し合って、共有して、今回はそのまま再使用という結論を導き出しました。
使えるけれども・・難しい判断をプロと共有する
調査していて実際に難しかったと感じたことは
洗面台や、浴槽、エアコン室外機などの設備機器の再利用です。
「再使用することは可能ですが・・・」といった難しい判断です。
今回は今後のメンテナンス保証が効かなくなるエアコンはこの期に新設
排水などの不安があるかどうかのテストをして、また専門業者のアドバイスなどを受け
幾つかの設備器具は再利用としました。
また、室内の傷や汚れをどこまでクリーンにしていくかを検討、相談しました。
私たちの立場としては、施主の方がどの程度までなら
快適に室内を感じることが出来るのかを理解し、共有することで
ここまで直したり、逆に直さなかった場合は実際にどんな状態かを説明して行きました。
こういった具体的な寄り添った言葉で、説明することが設計者には必要な能力です。
そうすることではじめて、
出来上がった時に、住まい手自身が「自分の家はこうして直したんだ」
「だから大丈夫」と自身を持って
これから長い先、住んでいける本当の心の拠り所となるのではないでしょうか。
やはり、復興の担い手として、「つくる・直す」だけではなく
「総合的判断」のできる
「設計者」としての役割は今後大きくなっていくのではないでしょうか。
見えないものをどう捉えるか
最後に、目視では確認できないものがありました。
それは、「細菌レベルでの汚れ」です。
豪雨による氾濫浸水の場合下水や汚水などが混ざった雨水が室内に侵入します。
そのため、カビや細菌など見えない敵と戦わなければなりません。
今回のケースとしては、浸水範囲の消毒を室内側のみ行っています。
菌の数値を測ったわけではありませんが、消毒の専門家を踏まえ
施主と相談して、消毒の範囲や、消毒の薬剤の選定を行っています。
この消毒については、私たちも経験がありませんでしたので
施主と率直な意見を交換しました。
私たち設計者は「まだ見えない未来をカタチにするプロ」ですが
住まい手にとって「まだ見えない未来の決断をする」のは容易ではありません。
住まい手の判断を手助けする方法があるとすれば
設計者が住まい手と「信頼関係を持って言葉を尽くす」ことではないかと思います。
まだ見えない未来について
設計者が感じていることと、住まい手が感じていることが
最終的には寄り添って近づけていくことが大切だと
改めて考えさせられたプロジェクトでした。
ゆあさ